
ネットサーフをしていて、偶然ヘレン・メリルが来日することを知りました。早速予約をし、久しぶりに
ブルーノートへ。
もう高齢だから、往年の輝きは失せているかも知れない・・・・それが杞憂に過ぎなかったことを、ヘレンは圧倒的な存在感と“JAZZの権化”としての力量でもって魅せつけてくれました。あーー、こんなに無条件に打ちのめされたのは何十年ぶり??
彼女は声を楽器のように使いこなすマイスター。口腔内をどういう形に作り、息をどう流し、どうニュアンスを乗せれば、どんな音色のどんな“音”が、どんな響きを奏でるかを熟知しているシンガーです。まさに双子座の匠。
まるで名人芸のようなプリズムの数々が繰り広げられるのを、ただただ息を呑んで見守り、聞き入っていた私。確かに、声量はないし、声は“あともうちょっと枯れたらダメ”というギリギリのライン。だけど、そんなことを思いっきり蹴飛ばして、笑い飛ばして余りあるだけの、なんというのかな。そう、ニューヨークが存在してたというべきなのかしらん(薄っぺらいパッケージのNYじゃないよ!)。
しかも。名人芸の数々が繰り広げられているのに、決して超絶技巧のワザ披露大会にはなってない。それに乗せて、ありあまる情緒とニュアンス、豊かな表現が満ち満ちてるんだよなぁ。・・・・ありえん。
さらに! 彼女を支えていた
ピアノトリオがスゴイ。こんなスゴイの初めて聴いた。NYでロン・カーター聴いたときもしびれたけど(そして彼にサインをもらった瞬間が、私の人生でもっともミーハーに針が振れたとき!)、今回は粒ぞろいのミュージシャンが奇跡のような演奏を魅せてくれました。あーーー、すごすぎる。
ドラムスも、ベースも、ピアノも、「こんな弾き方初めて見た!」な奏法が満載。ドラムスなんて、掟破りスレスレ・・・・で破っちゃった感のある(笑)自由奔放で情動が迸るプレイ。ベースもピアノも、さすがヘレンが選んだメンバーだけあって、ほんとうに見事でした。
・・・・この、「弾かないピアノ」が欲しいんだけどなぁ。私が求めてるピアニストはこれなんだけど。歌ってるとき、オカズを豪華に入れてくださるピアノも華やかでいいんだけど、“間”を演奏してくれるピアノ(そして“間”のあとにポロンとキーを叩く瞬間のニュアンスですべてが決まる)って、なかなかいないんですよね。もちろん、アグレッシブに奏でるところではガンガンいってもらって。・・・・これって、難しいよなぁ。
ヘレン・メリルの百面相ならぬ、百面歌唱。暖かく愛に溢れる人柄。そしてスタンダードでぐいぐい観客を引っ張ったあと、自分の好きな曲で存分に聴かせて、最後はお約束のYou'd be so niceで合唱させるエンタテイメントなステージング。すべてが珠玉のひとときであり、深い感動に満ちた素敵な時間でした。
今回、ステージの真横(!)ってお席もよかったかも。だって途中でインストを挿入したとき、ヘレンが休憩してる椅子の真ん前だったんですもの・・・・。真っ黒なドレスと真っ赤なネイル、そして絹のような金髪がほんとうに美しかったです。